perfume

FSSの小説
3031/トライトン、ブルーノ/トラ×ブルではない。1500字


 
 
 
 
 
 
 
フィルモア軍がナカカラに陣を張ってもう1年近く経った。軍の主力に加え議会や皇帝まで居座っているため相当の規模だ。自然その設備もそれなりのものになる。とは言えやはり仮設住まいの駐屯生活だ、本国にいる時に比べるとキャンプ気分なところがある。ブルーノを探しまわっていたトライトンはついそのノリで、ノックもなしに彼の個室に入ってしまった。
「ブルーノ、いるか?」
無音が返事する。照明はすべて消えている、どう見ても部屋の主は不在だった。
「士官室にもいない、部屋にもいないとなると艦のほうかな…」
無駄足を踏んだ間抜けさを独り言でごまかしながら退室しようとした時、その香りがトライトンの記憶を素手で掴んで揺さぶった。
 
「……?」
微かに漂ってきたその香りは、トライトンにとって素通りできない深刻さのようなものを孕んでいた。しかしそれがなんなのかわからない。
そもそもその香りと、ブルーノが結びつかないのだ。普段の彼からこの香りがしていた記憶はない。しかし知っている香りだ、それもかなり記憶の奥底にある。ぼんやりとしたその色。なんだっけ?これはなんだっけ?とにかくこれがここにあるのはおかしい。その違和感がトライトンの足を掴んで離してくれない。
悪いと思いつつその出所を探り、そのきちんと整えられたベッドに腰掛けてみるとやはりそこだった。マットレスに染み込んだ香りが一気に立ち上がりトライトンを包む。
なんだ女か、あいつもなかなかやるな、なんてニヤける事ができないのは、未だぼやけている記憶のせいだった。その霞がかった像は、そういう色っぽいものの像とは対極に位置していたからだ。それはむしろトライトンにもっと近しい、懐かしい、青っぽい、いや緑に近い、よく知っている色、自分も持つ色、そう、孔雀色の───
 
そうか、ラルゴ。
 
突然降って沸いた謎を解き明かした爽快感はその名のせいで瞬時に吹き飛んだ。
偶然同じ香水を使っていた、なんて事はあり得ない。これはラルゴだけの香りだからだ。王家であればお抱えの調香師を持ち、自分だけの香りを作らせてそれを使う。同じレーダー系列の王家の人間であり同じ騎士でもあるラルゴとトライトンは当然顔見知りであった。一度思い出せば香りにつられて懐かしい記憶が次々と蘇ってくる。枕をひっくり返してみるとシンプルなアトマイザーが転がっていた。蓋を外して鼻に近づけてみる、記憶はより鮮明になる、間違いない、これはラルゴの使っていた香水だ。
 
何故、これをブルーノが。しかももう40年も前に死んだ男のものを。
 
 
今度は悪びれもせずクローゼットを開けてみる。そこからは同じ香りはしない。仮設建築の狭い室内をうろうろしてみたが、結局その香りを漂わせているのはベッドだけだった。もっと探せばおそらく本体の壜が見つかるだろう。しかしトライトンにはそこまでする気も義務もなかった。
トライトンはその薄暗い部屋から出てドアを閉めると艦艇が停泊するエリアに向かった。
 
 
結局ダランスの中でブルーノを捕まえた。細々とした伝達事項を伝えた後ケーニヒとガラーも混ざり雑談になった。ケーニヒがいつもの調子でバカな事を言うのを呆れた顔で見ている彼からは、いつもの平凡な、涼しい男の香りしかして来なかった。
 
 
 
想像してみる。
独り眠る時間になるとその香りを身に纏う。40年前と同じようにその香りに包まれてしばしの夢を見る。
朝起きたらすべてを洗い流し40年後の時間に戻る。40年間、そんな毎日を彼が繰り返していると、想像してみる。
 
してみたからなんだっていうんだ、俺には立ち入る事なんてできやしない。
トライトンはその薄暗い想像から出たが、ドアが上手く閉まらないのには困った。
 
 
 
 
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